シミュレーショントレーニングで港をより安全に

HR Wallingford がシミュレーション技術を用いて、船舶操縦士のスキル向上と、多くの船舶や湾岸でのトレーニングプログラムの実施期間の短縮に成功した方法についてご覧ください。

世界貿易の商品の約 90% は、国際的な海運業によって輸送されています。2021 年にスエズ運河が貨物船の衝突により封鎖された際には、1 日あたり推定 96 億ドル相当の貨物遅延が発生しました。

大型貨物船が複雑な航路を安全に航行できるようにするためには、効果的な操船トレーニングが欠かせません。

ソリューション：イギリスで最も利用の多いコンテナ港向けのアップグレードされたトレーニングシミュレーター

Harwich Haven Authority（HHA）は、HR Wallingford と提携し、以下のことを可能にするシミュレータートレーニングを提供しています。

• 港の運用限界における悪天候下でのトレーニング。
• カスタマイズされたトレーニングを含む、継続的な専門能力開発プログラムを通して、必要な技能レベルを適時に達成および維持する。
• 新しい船舶クラスでの HHA への入港前に、船舶操縦士をその船舶クラスに慣れさせる。
• ベストプラクティスの開発および港湾局全体への普及促進。
• タグボート要件（能力と隻数）の独立的評価。

HR Wallingford が開発したトレーニングシミュレーター、そして同社の顧客である HHA が、このシミュレーターを活用して、年間 35,000 隻以上の船舶が寄港し、イギリスのコンテナ交通量の約 40% を占める港をどのように管理しているかをご覧ください。

従来のトレーニングの課題

リスク

コンテナ船 1 隻には最大 24,000 TEU（20 フィートコンテナ換算）のコンテナが積載されており、これは端から端まで積み上げると 146 km に相当します。また、海難事故の発生により、港が一時的に閉鎖されるリスクがあるため、船上トレーニングには慎重な管理が求められます。限定された条件下で、リスクを伴わずにトレーニングを実施するには、シミュレーショントレーニングを使用するしかありません。

船上トレーニングの実用性

船上トレーニングでは、訓練生の進歩や新しい船舶クラスの運用開始に伴い、より大型の貨物船を利用する必要があります。シミュレータートレーニングでは、新しい船舶クラスが入港する前、あるいは運用開始前でもトレーニングを実施することができます。

技術的発展のスピード

従来の 3D パイプラインでは、以下を行うことは不可能でした。

• サードパーティ製の物理モデル（HR Wallingford 製のものなど）の組み込み。
• 船舶や港湾の仕様変更に合わせたリアルタイムでの更新。
• 海洋トレーニング環境のリアルな視覚化。

HR Wallingford が Unity Industry にアップグレードした理由

HR Wallingford は Unity Pro を 2 年間使用した後、Unity Industry にアップグレードすることを選択しました。テクニカルディレクターのJames Clarke 博士にとって、この変更の決断につながった大きな要因がありました。Industry Success（IS）の存在です。HR Wallingford は、専任の IS アドバイザーのガイダンスを受け、以下の主要目標を迅速に達成しました。

1. よりリアルな波のシミュレーションを再現するため、ビルトインレンダーパイプラインから HD レンダーパイプライン（HDRP）にアップグレード。
2. シミュレーターの視覚化における数値波モデルの統合など、リアルタイムでの更新を実装。
3. 各顧客に合わせたシミュレーションのカスタマイズをより容易に実施できるよう、柔軟性を向上。

Clarke 博士は、次のようにコメントしています。「技術的に難しいシミュレーションを行うには、非常に高度な専門知識が求められます。ですから、業界向けのツールを最大限活用することで、既に開発されているツールの再開発を避けつつも、当社独自の流体力学および海洋気象モデリングを適用できるようにする必要があります」

シミュレーターについて

HR Wallingford の船舶シミュレーションセンターでは、流体力学モデル研究、船舶操縦モデル、専門家（造船技師や船長など）の知識を組み合わせて活用しています。

これらのシミュレーターは、船舶のブリッジをリアルタイムで再現し、船舶の空間的および時間的な挙動をシミュレートします。リアルに再現されたビジュアルが、信頼性の高いトレーニングシナリオの鍵となります。視差基準点などの視覚的な手がかりが操縦士のツールとなるため、視覚的環境を正確に再現する必要があります。風、波、潮流の高度な数値モデルも取り入れられ、リアルな環境要因の再現に貢献しています。

これらのシミュレーターは個別に、または同時に稼働させることができ、同時に複数の相互作用が可能です。大型貨物船は通常 4 隻以上のタグボートの支援を受けるため、これは重要な要素です。

即時のフィードバックによる効果的な学習

シミュレータートレーニングでは、訓練生は完全にプライベートな環境で、マイナスの影響を伴うことなく、何度も試行と失敗を繰り返しながら学ぶことができます。操縦士は、シミュレーションシナリオを通して、自己評価を行い、改善が必要な分野を特定できます。また、港のベストプラクティスに基づく円卓会議や建設的なフィードバックのきっかけにもなります。シミュレーター上で開発された手順は、実際の操船経験と組み合わせて、海上で実践することができます。

トレーニングが完了した後は、チームで集まり、セッションの画面再生を使って報告を行います。システムは数分以内にリセットされ、再びシミュレーションを実施できる状態になります。

HHA の操縦士は、継続的な専門能力開発プログラムの一環として、最低でも年間 2 日間シミュレーターを使用します。

操船トレーニング以外の用途

HHA では、シミュレーターは既存の操縦士のトレーニングを行うためだけのものではありません。以下のような取り組みにも活用されています。

• 採用候補者の適性と姿勢の評価。
• HHA が掲げる、操船業界におけるインクルーシブな就業機会の創出という目標の支援。HHA は、教育機関や専門機関からの訪問者向けに、シミュレーションと操船の実演を定期的に行っています。
• 港湾計画と戦略的な港湾開発支援。

今後の目標

Unity Industry にアップグレードすることで、HR Wallingford は大規模な採用投資を行うことなく、予定よりも迅速にシミュレータートレーニングを開発することができました。同社は、Industry Success チームと協力しながら、次に挙げるようなさらなる目標達成に向けて取り組んでいます。

• HDRP を使用した、よりリアルな夜間シミュレーションの実装。
• シミュレーターで軽度の座礁を再現するなど、特定の顧客要件への対応。