Tomas Sala 氏に聞く、受賞歴を誇る『Bulwark: Falconeer Chronicles』でのインディー IP の構築について

BAFTA(英国アカデミー賞)を受賞した『The Falconeer』のソロ開発者である Tomas Sala 氏は、gamescom 2023 にて Indie CommUnity Choice Award を受賞しました。3 月 26 日に予定されている『Bulwark: Falconeer Chronicles』のマルチプラットフォームリリースを前に、本マルチプラットフォームゲームで『The Falconeer』の世界を再び取り上げる理由について、ご本人にインタビューを行いました。
『Bulwark』におけるジャンル融合、Tomas 氏がキーボードやマウスよりもゲームパッド用のデザインを優先する理由、そしてインディーズに IP 中心戦略の検討を勧める理由についてお読みください。
Tomas さん、今日はお時間をいただきありがとうございます。そして Indie CommUnity Choice Award の受賞、おめでとうございます!まず始めに、コミュニティに向けて、近日発売予定のゲーム『Bulwark: Falconeer Chronicles』の背景、そしてより広大な『The Falconeer』の世界における今作の位置づけについて教えてください。
『Bulwark』は、『The Falconeer』と同じ世界が舞台となっていて、『The Falconeer』で起きる大戦争後の続きの物語です。プレイヤーは、戦後の状況に対処することになります。すべてが破壊され、ゴールドや財宝はすべて奪われ、多くの人々が去っていきました。この戦後のシナリオでは、昔のような派閥争いに陥ることなく、誰もが上手く共存しようとしています。これがゲームの背景です。難民たちは、新しい居住区を築き、より良い世界を作ろうとしています。居住区を築く中で、他の人々と出会い、時には昔のやり方に戻って争いが勃発することもあるでしょう。

『Bulwark』を前作と同じ世界に設定したのはなぜですか。
実用的な側面があったのは確かです。私は過去 10 年間、独自のツールセットの作成に多くを費やしてきたので、手持ちのリソースを再利用できることが重要でした。このアプローチは、ゲームジャム的な、つまり既存の枠組みを利用せずに新しいものを生み出し、それが上手くいくかを確かめるようなやり方とは正反対です。代わりに、既にあるものを使って作業する必要があります。
『The Falconeer』を見つめ直し、「このゲームの長所と短所は何だろう」と自問してみました。 短所は、90 年代回帰というニッチなジャンルであり、ゲームプレイという点では万人向けではなかったことです。長所は、世界観、ビジュアルの美しさ、多層的な感情表現、そしてゲームプレイを通じて体験する個人の物語でした。これらの要素は非常に強力であり、ゲームの魅力を支えるものであったため、残しておきたいと考えました。(個人的に気に入っていた)ジャンルから脱却して別の方向に進み、プレイヤーの共感をより多く得られるかどうか、試してみることにしました。
私にとっては、それがすべてです。自分の作品を分析し、やり続ける価値があるものは何かを見極め、それを発展させてより良いものにしていくこと。『The Falconeer』の世界には、すでに 7 年程費やしていました。荒削りな部分や改善すべき点は確かにありますが、それを完全に削ぎ落としてしまったら、今までの努力がすべて水の泡になってしまいます。この点は、ビジネス的な観点から、「小規模でクールなゲームを作れ」というインディー開発者向けのアドバイスで私が理解できないところです。 そうではなく、世界を作り上げ、プレイヤーが IP につぎ込みたくなるようなストーリーを語るべきです。
ジャンルの話に戻りますが、Black Salt Games の『DREDGE』から Cosmo D の『Betrayal at Club Low』まで、新しいゲームプレイ体験のためにジャンルを融合する開発者が増えています。Tomas さんは、『Bulwark』を「チル系グランドストラテジー」と呼んでいますが、なぜ 2 つのジャンル、しかも正反対のように思えるジャンルを組み合わせようと思ったのですか。
私は自分の作品に常に新しい要素が欲しいと思っています。他のゲームを模倣するのはつまらないですし、そんなことはできません。私がとても好きで、インスパイアされる「チル」ジャンルの一面があります。それは、「究極の効率重視思考」の対極にある態度です。私たちの脳の機械的な側面は、ゲームをクリアしたい、勝ちたい、最速、最高かつ最も効率的なプレイをしたい、といったことを考えます。しかし私たちの脳には、ゲームのファンタジーを楽しむことを重視する、夢見がちな側面もあります。そこでは勝つことは意識していません。
私が『Bulwark』で重視しているのは創造性です。基地作りの楽しさを味わってもらうこと。ファンタジーの世界に浸り、創造すること。それが「チル」ジャンルの本質です。これに加えて、『The Falconeer』の歴史やイベントもあります。『Bulwark』のこの部分に関して言えば、あまり「チル」なものではありませんが、世界を生き生きとしたものにさせています。
プレイヤーを飽きさせないために、ゲームプレイの創造性と対立のバランスをどのように保っていますか。
これは両立が難しいところではありますね。私は自分が作った建物を何時間も眺めることが好きですが、中には一定の時間が経過したら、爆破された方が面白いと思う人もいるでしょう。
『The Falconeer』を振り返って思うのは、とても芸術的で個人的なゲームだったということです。私が若い頃に好きだったジャンルで、不安や緊張、燃え尽き感、鬱といった、重いテーマを扱っています。このゲームは私が 1 人で制作したものだったため、あまり多くのテストは行われませんでした。『Bulwark』に対しては、異なるアプローチで臨みたいと思っていました。そこで、進化するアーリーアクセスデモを実施することで、プレイヤーの意見を聞き、プレイヤーの離脱ポイントを把握し、プレイヤーの興味を維持するための手段を模索することにしました。現在はクローズド開発に戻っていますが、これは今でも継続して行っています。
しかし、それが理由のひとつでした。何もない状態から「面白さを見つけよう」とすると、苦労することになります。このゲームでは、強制的な要素を入れないようにしました。戦闘を強制されるような進行パスはありません。ただのんびりと建物作りを楽しめます。しかし、外の世界に出れば、そのような展開も起こります。試すためでも、苛立たせるためでもありません。ただ、より生き生きとした世界を表現するための手段として用意されています。

Steam でアーリーアクセスではなく、デモ版をリリースしたのはなぜですか。
ユーザーによる検証とフィードバックが欲しかったからです。私は若手時代に Steam で多くの改造を行っていました。当時は大半の改造がオープン開発プロジェクトだったのです。何かをリリースすると、プレイヤーが要望や不満を伝えてきて、そのフィードバックを実装すると、満足してくれます。これがものすごく楽しかった。少しハードコアではありますが、この手のタスクが好きな人にとっては面白い苦行です。
ソロ開発者がアーリーアクセスに臨む際、プレイヤーはゲームの開発者が 1 人だけだということを忘れてしまうことがあります。私は非常に洗練されたものを作ってはいますが、実際に、私 1 人がすべてを行っているのです。パブリッシャーに返答対応を任せたとしても、プレイヤーコミュニティはよく思わないでしょう。プレイヤーは代理人ではなく、開発者と話したいと思っているからです。アーリーアクセスは、私にとって追加の仕事が増えることになります。このプログラムの趣旨は、「ゲームを進化させること」から、「完璧に洗練され、完全にプレイ可能なコンテンツをプレイヤーに提供して楽しんでもらうこと」へと変化しました。アーリーアクセスのプレイヤーはベータテスターではありません。最近では、適切なアーリーアクセスを実施するには、スタッフが必要になります。ロードマップとマイルストーンが必要で、マイルストーンを達成したら、コミュニティに知らせる必要があります。その上、お金を貰うわけですから、プレイヤーは言いたいことが出てくるでしょうし、それに彼らは顧客でもあります。そして、顧客は常に正しいのです。
これが、私が進化するデモを作った理由です。8 か月間、ノンストップで無料公開していました。プレイヤーは良く反応してくれ、私は彼らのフィードバックに耳を傾けました。デモの実施は、ある意味残酷な検証方法かもしれませんが、この過程を経れば、確実にゲームの改善につながると思います。
コントローラーサポートを追加されましたね。グランドストラテジーゲームにとって、難しいものでしたか。このジャンルではマウスとキーボードが一般的ですよね。
ここで余談ですが、私はゲームを作るとき、通常とは反対の流れで作業をしていて、いつもゲームパッドのコントロールから始めて、マウスとキーボードのコントロールに移ります。コントローラーで『Bulwark』をプレイすると、瞬時にとても直感的に感じられます。
ゲームデザインの観点からは、「コントロールを操作する」のではなく、「世界を操作する」方法に集中できるため、ゲームパッドのコントロールから作業し始めるのが好きなんです。
興味深いお話です!個人的に好きな操作方法は何ですか。
ゲームパッドです。これはまた、脳の夢見がちな部分の話にも関連するのですが、私が哲学的なレベルでコントローラーを好む理由は、プレイする際にコントローラーを見る必要がないからです。この時、実際に画面を見ながらプレイできます。マウスとキーボードでゲームをする場合はいつも、カーソルを見ています。この時、世界を見ているのではなく、その上の別のレイヤーから世界を操作しているだけになってしまいます。コントローラーでプレイする際は、これが生じないから好きなんです。
CommUnity Choice Award の賞品として Steam Deck を頂いてからは、ずっとそれを使っています。Steam Deck を使って Steam の開発ブランチに新しいビルドをアップロードすると、数秒で Steam Deck に反映されることを知りました。PC では、アップデートを検出するために Steam を再起動する必要があります。なので私の Steam Deck は今、地球上で最も簡単な開発キットです。アップロードを押すだけでプレイでき、デバッグ用にセットアップされた私のコンピューターの設定を変えてしまうこともありません。

プレイヤーが構築するための環境はどのように生成していますか。
実は『Bulwark』にはマップ生成はありません。『The Falconeer』と同じ世界なので、10x10km のオープンワールドです。そこにいろいろなものを放り込んで、Unity に処理させています。岩や海そのものにインスタンシングを多用しましたが、ストリーミングコードは一切ありません。
現在、派閥の居住区(プレイヤーが望む場合は戦えるグループ)をストリーミングしていますが、これらは JSON ファイルとしてではなく、エンジンが解析する長い文字列として、非常にシンプルな形で扱われています。オブジェクトの数がそれほど多くないので、それで済んでいます。
また、プレハブも使っていません。これを使うと頭が混乱してしまうんです。代わりに、シーン内にオブジェクトプールがあり、それをコピーして壁などを作っています。それらによって動的な居住区が構築され、プレイヤーが離れるとディスパッチされます。
小さなことでも構わないのですが、技術面で最も誇りに思っていることは何ですか。
このゲームに、面白い資源システム、というより物流システムを作ったことです。建設には、ゴールドは必要ありません。ただ建物同士を接続するだけです。例えば、+4 の木材を供給する風車があれば、塔ネットワークの最大 4 つのノードで木材を使って建設することができます。風車の周りに家や産業施設を建てると、風車の生産量が向上します。というのも、仕事をするには、人員が必要になるからです。これは居住区全体で反復的に作用し、実際に機能している経済システムです。また、対応するコードもかなり複雑です。自分をアーティストだと考えている人間としては、「素晴らしい再帰的な経済システムを作れた」と感じています。 これが正しい表現かどうか分かりませんが、かなり誇らしく思っています!
少し前に、『The Falconeer』の制作にアセットストアを利用した体験について、当社のケーススタディに協力いただきました。『Bulwark』では、何か新しいアセットを入手しましたか。
新しいアンビエントオクルージョンのパッケージを入手しました。私は Unity 2022 LTS を使用しているのですが、独自のワークフローの構築に長時間費やしており、独自のツールを使うことに慣れているため、変わらずビルトインレンダーパイプラインを使っています。Unity のポストプロセッシングのサポートは、URP と HRDP の方が充実しているため、最新の手法を使うために、アンビエントオクルージョンソリューションが必要でした。最終的には、私と同じオランダの開発者である Alterego Games から、URP とビルトインの両方で動作する FSR 2 – Upscaling for Unity を購入しました。これはとても役に立っています。アセットストアの開発者が、私のような開発者のために、新しい技術へアクセスできるようにしてくれることをとても嬉しく思います。

素晴らしいですね。時間をかけてビジュアルを洗練させることは、ゲームを知ってもらう際に、大きな効果を発揮し得ます。自社ゲームをもっと多くのプレイヤーにプレイしてもらいたい開発者に向けて、どのようなアドバイスがありますか。
運はかなり大きな要素です。小さなゲームを 20 本作れば基礎は身につくかもしれませんが、今の市場はもう小さなゲーム向けではありません。今年のインディーズアリーナブースを見てください。非常に野心的で洗練された、美しく、独創的なゲームが並んでいます。ほんの数年前なら「AAA」の評価を受けたであろうものばかりです。しかも、そんなゲームが数多く存在するのです。
統計的な観点から、ゲームを成功させるために最も重要なことは、作り続けることです。ゲーム作りをやめてしまったら、注目してもらう機会は一生訪れません。これは、持久戦です。最終的に最も根気のある人が勝つゲームです。いつかは、業界の知り合いが多くなるでしょう。技術もさらに上がり、新しい手法も見つかり、より多くのジャーナリストにも出会うでしょう。業界やビジネスに長くとどまればとどまるほど、熟練していきます。だから、何も気にせず作り続けることです。ただ手を動かし、継続することが大切です。その道のりは旅のようなものです。
このインタビューは編集、要約されたものです。
『Bulwark: The Falconeer Chronicles』は、2024 年 3 月 26 日、PlayStation®5、PlayStation®4、Xbox Series X|S、Xbox One、デジタルストアにて発売されます。ゲームをウィッシュリストに追加し、@falconeerdev をフォローして最新情報をゲットし、1 月 30 日のゲームデモを見逃さないようにしましょう。ゲーム開発のイノベーターにスポットを当てたストーリーをもっと読むには、Made With Unity ハブをご覧ください。
