『Book of the Dead』ー キャラクターと主人公のアセット

本ブログシリーズでは、デモ動画『Book of the Dead』の様々な側面を見ていきます。もし『Book of the Dead』制作プロセスに関する以前の記事をご覧になっていない場合は、Unity のデモチームの紹介記事と、『Book of the Dead』コンセプトアートの紹介記事もぜひご覧ください。
はじめまして、Plamen 'Paco' Tamnev です。私はここ数年は Unity デモチームでキャラクターアーティストおよび環境アーティストとして仕事をしています。これまで関わったプロジェクトには、『Adam』、『The Blacksmith』、『Viking Village』の他、2、3 件の小さなプロジェクトが含まれます。このブログでは私が『Book of the Dead』のためにやった仕事の一部と、デモ動画で使われているキャラクターと主人公のアセットの制作で私が取ったプロセスとパイプラインについて触れようと思います。
コンセプトアートディレクターの Georgi Simeonov が 2D でたくさんのクイックアイデアを出してくれたあとに、私たちはそれらのスケッチの中からこれは、と思う要素をいくつか取り出し、それらを組み合わせてみようとしました。この作業を行うために、私はまず ZBrush でラフなスカルプトを作ってみて、アイデアをいくらか形にしてみました。このように、早い段階から私たちは並行して作業をしていたので、こうして作ったスカルプトが最終デザインに採用されるとは思っていませんでしたし、そうだとわかっていたら試さなかった案を実験してみる機会を探していたところでした。また、違うタイプの表面処理やマテリアルの検討もやろうと思っていたのです。ともあれ、あのドラフトとして作ったスカルプトに見られるデザイン要素の一部は、キャラクター制作プロセス全体を通して使われることになりました。一方で、プロポーションはかなり変更されました。これは「狂人」のキャラクターが現実的なものであることがナラティブの重要なパーツだったためです。初期の「狂人」はもっとスタイリッシュなデザインでした。


試作したスカルプトにより良いコンテキストを与えるため、できるだけ早くにマテリアルの検討をする機会を持つようにしました。そうして行ったテストを通じて、最終デザインに使った滴る樹液の表現が出来上がりました。



最終デザインはオンラインのスキャン画像ライブラリにある男性の身体のスキャン画像を元に作り始めました。スキャン画像を元にすることで、人体の基本的なプロポーションや一般的な特徴を把握することができました。ZBrush でメッシュをきれいにした後で、「狂人」の最終版のスカルプトは、特に背中から見た場合に、初見では普通の人間だと認識されるようにしなければならないという点でなかなか完成させるのが難しいということがわかってきました。私たちは「狂人」の背後からゆっくりとアプローチする画を撮りましたが、アプローチし始めてすぐに崩壊している部分が全部見えてしまったら、話の組み立てが壊れてしまうように思われました。そこで私は、キャラクターの前面に必要だった大きな空洞の概略図を描くところから手を付け、背面についてはオリジナルのシルエットと筋肉の流れに近づけるようにしたのです。そうするために、「狂人」に樹皮を付け加えて、特定の箇所のシルエットを少しだけ崩してみました。このとき、「狂人」の身体のアウトラインを大きく崩してしまわないように注意を払いました。中程度以下の精細度のディティールはほとんど手でスカルプトを作り、乱れの表現にスキャンしたアルファをいくらか使いました。この後の工程で Substance Painter を使っていろいろとディティールを追加するというやり方を取っているので、これは ZBrush でスカルプトを作るときにこだわり過ぎないところで止めるというバランスの問題でした。




「狂人」たちのバックストーリーを表現するために、「狂人」の見た目を干からびた凹凸部分の堅い樹脂と、流れ出る液状の樹脂とを組み合わせて作る必要がありました。このような複雑なマテリアルの制作は困難なものになると容易に予測されたので、私たちは非常に才能のある人物である Yibing Jiang に琥珀のシェーダー作成について R&D的なテストをするように依頼しました。彼女は 2 枚のジオメトリレイヤーを使うというアプローチに行きつきました。つまり、琥珀のベースレイヤーをコアとして、その上にベースレイヤ―と同じジオメトリにわずかにオフセットを加えたレイヤーを重ねたのです。上に重なるレイヤーはディザー化されたアルファと、ベースレイヤ―とは異なるディティールマップのセットを持っていました。これはコアのレイヤーに乱れと変化を持たせるための処理でした。サブサーフェススキャッタリング(SSS)プロファイルと組み合わせることで、コアのレイヤーを調節し、深みがある美しいマテリアルを得ることができたのです。

「狂人」の頭から流れ落ちる樹液は Zdravko Pavlov が作ったのですが、これについては彼が今後公開されるブログ記事で説明してくれると思います。






私たちはゼロから一揃いのキャラクターを作らず、しかしある程度のばらつきを持たせたキャラクターの群れを作るうまい方法を必要としていました。主に中距離から遠距離にあたる位置で群れが見えるということは分かっていたので、あまり多くの時間をかけずに十分見た目が良くなるように制作を進めました。私はまず、Substance Painter のクローンブラシを使って、全体が樹皮で覆われた「狂人」を 2、3 体作りました。それから同じプロセスを繰り返して、樹皮の下に琥珀のレイヤーを作成しました。




ここまでの時点ではハイトマップはまったく設定されていませんでしたが、最終版のマテリアルにハイトマップを設定することで、樹皮の凹凸に奥行きと細かい乱れが加わり、より有機物に近い感触が得られました。すべての設定を行い、うまく機能するようになった後は、群れにいる個体の表面の腐食ぐあいはマスクを編集するだけで変更できるようになりました。

上の画像は 2 枚のレイヤーを使うアプローチをはじめて試したテストのひとこまを切り抜いたものです。2、3 枚のランダムなマスクを使った乱れと表面の腐食の見え方を試しています。シェーダーの面では、テッセレーションが施されたハイトマップがあり、オフセットと全体的なマテリアルの精細度を高めています。

最終版の外観を仕上げとして、私たちは不透明度マップとハイトマップを使って崩れたウロの表現を追加しました。このワークフローでは、ちぎれた手足のようなものを加えることも容易にできました。

すべてのエフェクトが適用された最終版の「狂人」の群れのショット。
Karen の両手と彼女のブレスレットはティザー動画ではほんの一瞬見えるだけですが、全体的な体験においては重要な役割を持ちます。ですので、私たちは画面に映る時間は短くとも、両手とブレスレットを正しく扱い、十分にケアをする必要がありました。


プレイヤーキャラの手の制作は、まずオンラインライブラリ「Ten24」からスキャンするところから始め、スキャンを再構成してクリンナップしました。続けて、爪を分離した手を Substance Painter に取り込み、テクスチャパスに通しました。基本的なウェザリングも一部はここで行いましたが、泥で覆ったり画面上で気を散らせるようなものにならないようにしました。

「司教」は Unity で扱った概略図に非常に多く登場します。私たちは「司教」の大きさやポーズについての面白いアイデアを試し、そうしたアイデアがこのキャラクターによって伝えなければならない内容にどのくらい影響するかを確認することができました。キャラクターの最終デザインが出来上がり、チーム全体の承認を得たあと、私たちは実際に使うアセットの制作に入りました。
私たちはフリーの 3D アーティスト Alex Ponomarev と一緒に、ZBrush でハイポリゴンのスカルプトを制作しました。スカルプトが仕上がると、私はゲームの解像度に合わせたメッシュの制作にかかり、デザインしたポーズの制作を使いやすい ZBrush のリギングツールで行いました。複雑なリグを作る必要がない場合、これらのツールは静的なポーズをさっと作って、モデルの調整を行う目的にうってつけですし、検討の余地をさらに広げてくれます。続けて、制作したポーズを Subtance Painter に取り込み、マテリアルとウェザリングの検討案をいくらか作りました。「司教」のサイズは決まっていたので、複数のタイル化されたディティールマップを使って、解像度とスケール感を台無しにしないようにする必要がありました。



Alex からハイポリゴンのスカルプトを受け取ったあと、私は ZSphere でざっとリグを作り、キャラクターのポーズを作りました。「司教」は、トルソーをちょっと回転させる以外のジェスチャーを取りませんから、「司教」に複雑なリグを作る意味はなかったのです。今回は、ZBrush のポージングツールで十分でした。

私たちはマテリアルが機能する範囲で、大きなモニュメントには昔からよく見られるタイプの外観になるよう手を加えることにしました。カスタムマテリアルをいくつか作成し、最終版の「司教」にはスケール感を補うためにディティールマップを使いました。
「司教」の最終デザインが定まるまで、私は Georgi の初期デザインを試し、Unity に取り込んでみました。オブジェクトにゲーム内のキャラクターの視点でアプローチして、それらがどのように見えるか、どのような感覚を与えるかを試してみることは重要だったのです。


私たちは環境アーティストでキャラクターアーティストの Tinko Wiezorrek にアプローチし、外殻、「車」、「巣箱」のモデリングとテクスチャ制作を依頼しました。
彼はまず Georgi のコンセプトとノートに基づいて、外殻のスカルプトをいくつか作りました。彼のアプローチは、スカルプトをベースにして、そこに私たちがすでに持っていた樹皮のスキャンを元にしたテクスチャーセットを複数乗せ、スカルプトされたディティールとテクスチャーを組み合わせていくというものでした。





ティザー動画を見る人は『Book of the Dead』の世界の中で「車」や日常的に見かける物に出会います。そうした物に手作りされた見た目をもたせるために、私たちは不透明度を持つベイク済みのカスタムジオメトリを使い、さらに樹液を随所に置きました。

「巣箱」の入り口の制作では、Tinko は車のときと同じアプローチを取りました。より興味を引き、スケールのあるビジュアルにするために、「巣箱」はさらに広いバラエティとカスタムオブジェクトを使って構築しました。

チームが制作したアセットや完成させた仕事はまだまだありますが、このブログ記事の目的に照らすと、特に取り上げるべきアセットやその制作へのアプローチ方法に関しては、ここまでの内容でほぼカバーできたと思います。
私の作品は Artstation と Instagram でもご覧になれます。
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本シリーズの次の記事も楽しみにしていてください。次回は Zdravko Pavlov が『Book of the Dead』のテーマとアセット制作について、彼の樹木に対するアプローチと合わせて語ってくれます。その次の回では Julien Heijmans が現実のような環境を作り出すツールとテクニックについて解説する記事を投稿します。そのあとにも様々な記事をお届けする予定です。
6 月 19 日から開催される Unite Berlin では『Book of the Dead』の環境をご自分で探検していただける試遊台をご用意しています。また Julien Heijmans がデモの環境アートに関するプレゼンテーションを行います。完全なスケジュールはこちらでご覧ください(英語)。