Ludia の Jurassic World Alive: Unity のケーススタディ
独自のゲームエンジンを開発することは並大抵の苦労ではありません。さらに期日が迫りくる中でそれを使って『Jurassic World Alive』のような大作を作るとなると、プレッシャーは相当なものになります。そのような状況下で Ludia は自社エンジンの開発を継続するか、サードパーティのプラットフォームを採用するかの選択を迫られました。ここでは彼らが Unity を選んだ理由を探っていきましょう。

ゲーム開発途中での Unity への切り替え
大作のエンジンを開発の途中で変えるためには、戦略的計画とそれに沿った厳密な移行ステップとタイムリーなトレーニングが必要です。幸い Ludia は Unity を選択しました。何百万人ものプレイヤーが事前登録をして、Ludia と Universal Games and Digital Platforms 提携によるゲームのリリースを今か今かと待ち受ける中、Unity はエンタープライズサポートや現場でのアドバイス、そしてさまざまなトレーニングのオプションを用意してサポートを開始しました。その結果、350 名の従業員を抱え、これまで『Jurassic World: The Game』、『Battlestar Galactica』、『What’s Your Story?』、『Dragons: Rise of Berk』など、多くの大ヒット作品を送りだしてきた経験豊富なスタジオの Ludia は、リリースの期日を守っただけでなく、ワークフロー改善とコスト削減の恩恵も得ることができました。
成果
- Unity のエンタープライズサポート、現場でのアドバイス、トレーニングによってスムーズな移行が実現
- 制作パイプラインにおいてアーティストの自由裁量を拡大し、ボトルネックを削減
- 自社エンジンの開発、サポートよりコストが低い
- Unity を使用するまでは半日かかっていたゲームレンダリングが数時間に短縮
- Unity ベースのゲームではゲームのクラッシュ率が他のゲームよりも格段に低い
リアルタイム 3D コンテンツ作成プラットフォームへの移行
大手スタジオでは多くの理由から作品ごとにゲームエンジンを変える傾向があります。 Ludia も例外ではなく、Jurassic World Aliveの開発を始めた当初、彼らは昔ながらの C++ エンジンを使いながら、より高性能なサブエンジンを開発していました。
しかし、Ludia のプログラミングスタジオマネージャー、Jimmy Beaubien によると、彼らは「サブエンジンの準備は整っておらず、それをスムーズに動作させるための変更には時間がかかりすぎることがわかったので、サードパーティーのソリューションを探すことにしました」
その時点でJurassic World Aliveの開発開始からすでに 6 か月が過ぎていました。市販のソフトウェアをいくつも検討した結果、彼らはパイロットプロジェクトのサイズが小さかったことから Unity を選びました。実際それは首尾よく運び、彼らは自社エンジンの開発を中断し、Jurassic World Aliveを Unity に移行させました。

重点をプログラミングからコンテンツに変更
Ludia にとって Unity への変更はプロジェクトの根幹に関わる出来事でした。なぜなら、それまでの自社エンジンがプログラマー中心の開発環境だったからです。Beaubien はこう言います。「Unity は違いました。コンテンツ中心で誰もがゲームに貢献でき、その点が大きな魅力でした。というのも、私たちには 3ds Max のようなツールを使って多くのコンテンツを統合する必要があったからです」
Jurassic World Aliveの リードプログラマー、Catherine Barbeau も同意見です。「Unity を使えば、アーティストはより多くの自由を手に入れ、プログラマーにお伺いを立てる必要が少なくなります。以前のエンジンでは、ビジュアルの統合に際して大部分をプログラマーに頼っていたのですが、今ではアーティストだけでできる部分が増えました。他にも機能はたくさんありますが、私たちにとってはこのことが一番の収穫です」
さらに冗談交じりに次のようなことも指摘します。「プログラマーたちは以前のようにこれを 2 ピクセル分、左に移動させてほしいなどという些細なことで煩わされることはなくなりました」そしてより重要な変化の例として、アーティストがいろいろなことに挑戦するようになり、新しいシェーダーのようなものを提案するようになったとも言っています。
シェーダーについては実際にゲームに組み込む前にプログラマーにそのパフォーマンスを検証してもらうつもりのようですが、「Unity のツールは開発者の創造力をかき立てる一方で、すべてをゼロから作る必要がないため、プレッシャーも減りました」とのことです。

エンタープライズサポート
必要なときに必要なサポートを
かけられる時間に限りがあり、ゲームに携わる開発者の数が多い状況下で新しいプラットフォームへの移行には憂慮すべき事項がいくつもありました。幸い、Jurassic World Aliveのシニアプロデューサー、Maggy Larouche は以前の会社で Unity のスタッフの仕事ぶりを直接見ており、彼らの対応がいかにすばやく、有益であるかを知っていました。
「Ludia が Unity への移行を決めたとき、私の最初のアドバイスのひとつが、迅速なサポートのために Unity のエンタープライズサポートを採用することでした。Unity は私たちをサポートするのが初めてだったため、プロジェクトの規模を考慮して現場にエンジニアを投入しました。エンジニアたちはこちらのスタッフと緊密に連携し、リアルタイムで彼らの質問に答えてくれました。エンジニアの投入という Unity の対応は実に柔軟でしかも先見の明があり、プロジェクトの開始以降、サポートの中心になりました」
Beaubien はさらに続けます。「Unity のエンジニアとこちらのエンジニアが直接話をすることは最高の戦略でした。なぜなら、お互い相手の言いたいことがすぐにわかるからです。現場の問題がよく理解できていない遠く離れたサポートスタッフと話すよりも格段に効率的です。専門家が現場で待機して、必要なときにはすぐにコードを開けて問題を指摘したりより深く検証したりできることは大きな意味を持っています。そのため私たちは最初の 1 年が終わった後も、エンタープライズサポートを継続したのです」

タイムリーなトレーニング
Unity のスキルをレベルアップする
移行前にはJurassic World Alive 開発者の 95% が Unity の未経験者だったため、トレーニングは必須でした。Larouche によると、彼らは最初、「自由の日」と呼ばれる日を 2、3 日与えられました。「彼らを Unity のすべてのトレーニング動画にアクセスできるようにして、好きなようにやらせました」
そして次の 3 日間はプログラマーや開発者のための教室でのトレーニングにあて、その次の 2 日間はアーティストのためのトレーニングにあてました。Larouche によると「トレーニングはとても有益で開発者たちはみな一定のレベルに到達し、彼らはその後さらに数日間、いろいろな試行錯誤や調べものを行いました」
最初のトレーニングが終了した時点で Unity への移行が始まりました。その一方で最初の 3 か月間、彼らは独自のエディターやウィンドウを作るために、UI のトレーニングを含む特別にカスタマイズされたコースを追加で受けました。

同時進行の学習と資格
Unity を極める
ある程度 Unity に習熟した時点で Ludia はプロジェクトと同時進行で開発者のニーズに合わせてカスタマイズされたトレーニングを継続することを決め、開発者がトレーニングのタイプや形式、スケジュールなどを自由に選べる Unity Learning Credits を導入しました。「誰もが自分ひとりでは習得が難しいトピックについての学習を進めることに積極的でした」と Beaubien は言います。「この時点で開発者たちにはより複雑な機能やツールへの理解を深めてもらいたかったのです」
Beaubien は開発者を対象にアンケートを実施し、彼らの関心がどこにあり、それが現在のプロジェクトや課題に関連していることを確かめた後、特別な Unity ワークショップを立ち上げました。「現在、最も関心が高いのはシェーダーとグラフィックのプログラミングです 。Unity については充分に活用できているとは言えない機能がまだいくつもあり、そのような機能をもっと活用できれば、最適化の実現につながります。モバイルでは特にこのことが重要な課題になります」
それからもう 1 つ、彼らは Unity の資格認定にも大きな関心を寄せています。「すでに数人の開発者が Unity 認定開発者の資格を持っていましたが、私たちはそれに満足せず、全員がもっと高度な知識を身に着け、開発に生かすことを望んでいます。目標は、新しい機能や他のゲームの開発に伴って発生する新たな課題にも挑戦できるような Unity の認定エキスパートを増やすことです」と Larouche は言います。
すでに Unity を習得した人材はこの Larouche の言葉が頼もしく響くはずです。すでに Unity の人材募集要項の主要な資格や望ましいスキルの欄には Unity の経験が加わっています。

成果と恩恵
腹ペコのティラノサウルスのように全速力で前進
リリース以来、『Jurassic World Alive』のアクティブなプレイヤーは数百万に達し、現在も毎日、数千人ずつ増えています。したがって Ludia の生産戦略は大成功だったようです(代表的な 5 つ星のレビュー:「Ludia がリリースした素晴らしい新作ゲーム。いろいろな点で『Pokémon GO』よりも上」)。
では『Jurassic World Alive』を Unity に移行したことによって Ludia にもたらされた恩恵は他にどのようなものがあるのでしょうか?Barbeau によると、ひとつは Unity で作られたゲームの平均のクラッシュ率が、リリースから数年たっている「成熟したコード」のゲームを含むその他のエンジンで作られたゲームに比べて格段に低いことです。
Beaubien が Unity で気に入っている点は、異なるデバイスへのビルドが容易で、しかも自社エンジンに比べてビルドの時間が 2 倍から 3 倍速いことです。「かつてはビルドをコンパイルするのに午後の時間をすべて使う必要がありましたが、それが Unity ではほんの数時間で終わります。」
さらに Larouche は、Unity なら自社のゲームエンジンを開発、維持するよりもコストが低いことを付け加えます。ただし、それがいくらかは教えてもらえませんが。
最後に、彼らが Unity に切り替えた主な目的は、現実の世界にリアルな恐竜を登場させるためでしたが、Unity の恩恵は他のゲームにも及んでいます。『Jurassic World Alive』と並行して他のチームが『What’s Your Story?』を開発、リリースし、さらに Unity のパワーがおおいに発揮され、大きな期待が寄せられている『Warriors of Waterdeep – Dungeons & Dragons』が近日公開の予定で、Ludia のさまざまなジャンルの人気モバイルゲームで Unity の多様な能力が証明されています。