Forgotton Anne: 2D 向け Unity のケーススタディ
500 ページにわたるスクリプト、デンマークフィルハーモニー管弦楽団の演奏によるオリジナル楽曲、そしてアニメ映画業界出身者のチームによるジブリ並みの高品質なアニメーションを用いて制作された『Forgotton Anne』は、かなり野心的なプロジェクトだと言えます。2D アドベンチャープラットフォーマー史上屈指の高品質なシネマティック体験を生み出すために、ThroughLine Games が Unity をどのように活用したのかについてご紹介します。
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ゲーム
Forgotton Anne。2D ファンタジーアドベンチャータイプのプラットフォーマー
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目標
シームレスな遷移と高い芸術性と幅広い層を引きつける魅力を備えたストーリー中心のゲームを作るために
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チームメンバー
10~15
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場所
デンマーク、コペンハーゲン

Unity の 2D および 3D ツールで映画品質を実現
『Forgotton Anne』のアニメーションが日曜の朝のアニメのように滑らかで洗練されたものでなかったとしても、それは意図されたものです。開発チームは、宮崎駿氏による日本アニメの名作『千と千尋の神隠し』のように、ファンタジーの世界と現実世界という正反対の世界観を共存させることを目指しました。しかも彼らは、そのすべてを 2D プラットフォーマーゲームで再現することに挑戦したのです。
その成果は以下のとおりです。
- Unity の 2D および 3D ツールで映画品質を実現
- ボタン 1 つでクロスプラットフォームのビルドを実行
- Unity アセットストアのツールを利用することでアニメーションのワークフローを約 4 倍に迅速化
- 2018 Golden Joystick Awards で「ベストストーリーテリング」にノミネート
- Herning Museum of Contemporary Art で「次世代のレベルを象徴するビデオゲームデザイン」の1 つとして展示
- Peter Due 氏作曲、デンマークフィルハーモニー管弦楽団演奏によるオリジナル楽曲

他の 2D 領域へのキャラクターの移動に 3D がどう役立ったのか
Forgotton Anneの制作に当たって ThroughLine は、ストーリー展開を中心とする技術的課題に直面しました。ストーリーの主人公は魔法の石を手に入れなければなりません。その石があれば、「アニマ」のエネルギーが保存されている他の領域が見え、そこに入ることができます。ThroughLine にとってそれは 2D プラットフォームゲームの 1 つの環境に対し、2 つの異なる美意識を表現する方法を見つけ出すことを意味していました(当時はまだ Unity の Cinemachine や Timeline 機能は利用できませんでした)。
制作リーダーの Alfred Nguyen は「最初に考えたのは、パララックスを利用して 2D でゲームを作ることでした」と言います。「しかし最終的には Unity を使って 3D で作るほうが簡単であることに気づきました。そうすればキャラクターは z 軸上を動くことができ、カメラもさまざまに移動させられます」
z 軸に沿って別の領域に移動
3D で作業することで、実際はキャラクターが 1 つのシーンから別のシーンに移動しているのにドアをすり抜けているかのように見える映像を作り出すことが可能になり、そのような移動をスムーズに表現することができました。
「ゲームオブジェクトが出現するときにはすべてのスタッターを隠すことができます。自然なフェードイン、フェードアウトがあり、このゼロ点なにがしかの 数秒間を黒一色で隠すことができます。それはいたって自然に見えます」と Nguyen は言います。「さらに 3D でゲームを作ることで、 被写界深度のような洗練されたシネマティックなエフェクトをたくさん追加できるようになりました。したがってたとえば、青みを帯びた灰色の霧を追加して Anne が魔法の石を使ったときに見える別の領域の幻想的な映像を実現しました。Unity のおかげでこれらすべてのことが実に簡単になりました。私たちは 2D と 3D を自在に切り替えることによってゲームのテーマを際立たせ、さらにさまざまな物を自由に移動させました」

Unity はいかにして大量の手描きアニメーションの管理を可能にしたのか
技術的な解決法によってある種のエフェクトを可能にするという選択肢もありましたが、カットシーンを含めて 5000 ある個々の Anne の描画に対してゲームでのシームレスな遷移を実現するのに ThroughLine が使った現実的かつ経済的な方法とはどのようなものだったのでしょうか?
Unity の高い拡張性のおかげで彼らは効率的なワークフローを構築しながら、彼らが理想とするリアルでシネマティックな品質を確保することができました。ThroughLine はその際、独自のカスタムスクリプトのツールを Unity に追加し、アニメーションの中の大量のアセットを管理しました。
「当初はスプライトシートの大きさを考えると気が遠くなり、それを効率的に管理する方法を見つける必要に迫られました。そこで私たちは独自のツールを作ったわけですが、アートディレクターはそれを使ってどのアセットがどこで使われたのかを追跡し、簡単にスプライトをシャッフルして最適化することができました。独自のカスタムスクリプトを使っての Unity の拡張はきわめて簡単で、私たちはそれをフロントエンドのデザイナーに提供しました」と Nguyen は言います。
Unity アセットストアのツールでアニメーションワークフローの時間を 25% カット
ThroughLine は、アニメーションの管理を効率化するためのもう 1 つの方法として、一部のキャラクターについてはアセットストアにあるスプライトアニメーションのツールを使用しました。forgotlings(靴下や時計など、ゲームに登場する忘れられた物を擬人化したキャラクター)についてはスプライトベースとスケルタルなアニメーションを組み合わせたのです。それによって時間を節約し、より重要なアニメーションにより多くの時間と労力を集中してジブリに影響を受けたという美しいスタイルを完成させることができました。
「他にもっと多くの機能を持つツールもありましたが、それらは複雑すぎるか、充分なサポートを得られないかのどちらかでした。けれども Unity アセットストアには手頃な価格の多種多様なツールがたくさんあり、最適だと思われる物が見つかるまでかなりの数を試して見ることができました」と Nguyen は言います。
最終的に彼らは Anima2D を選択しましたが、これは今では Unity’s 2D アニメーションツールに組み込まれています。
「それは実にシンプルで使いやすい物でした。そしておもしろいことに Anima2D のチームは Unity に加わり、現在のスケルタルアニメーションシステムの開発に携わりました。もし私たちが Unity アセットストアのツールではなく、すべてをスプライトで処理していたら、4 倍以上の時間がかかったはずです」と Nguyen は言います。

Unity での音楽とゲームプレイの統合
チームリーダーの Nguyen 氏は、映画制作に携わった経験とデンマーク国立映画学校で学んだ知識から、ゲーム全体の雰囲気を確立するためには、印象深い音楽が不可欠だと制作当初から考えていました。『パンズ・ラビリンス』のサウンドトラックのような象徴的な音楽で、プレイヤーをストーリーの中に引き込みたいと考えたのです。
「最初のコンセプトトレーラーの段階から、私は誰に音楽を依頼するかを決めていました。Peter Due とは、以前一緒に仕事をしたことがあったんです。彼はトレーラー用に Anne のテーマを作曲してくれたのですが、その曲によってゲームの不思議な雰囲気が確立されただけでなく、開発期間中ずっと、私たちはその曲からインスピレーションを受け続けていました」(Nguyen 氏)。
結局、トレーラーの曲は最終バージョンでも繰り返し使われるメインテーマになりました。演奏したデンマークフィルハーモニー管弦楽団はそれ以来、『Hitman』や『World of Warcraft』など、他の有名ゲームの楽曲とともに、この曲をコンサートでも演奏しています。
音楽はゲームの世界に魂を吹き込む
「作曲家の Peter とは、制作開始当初からポストプロダクションの最後の瞬間まで、ピンポンのようなやり取りを続けました。「たとえば彼にヒントを与えるために反乱勢力のスケッチを見せると、彼はそれにふさわしい曲を作り、今度はその曲が私たちにインスピレーションを与えてくれるといった具合です。音楽がクライマックスに向かって徐々に緊張感を高めていくようなら、アニメーションにもそれが反映されるよう、私たちも大幅に手を加えてクライマックスを演出しました」(Nguyen 氏)。
作曲家の Due 氏は作業に WWise サウンドエンジンを使用しましたが、Unity とのスムーズな統合性によって、開発チームとの連携も非常に簡単に行えました。
「WWise の膨大なオーディオファイルの中から適したファイルを選び、必要に応じて処理すれば、あとは Unity のゲームにスムーズに組み込むことができます。まるで 1 つの高機能ソフトウェアで作業しているような感覚です。」
ゲームができあがるまで
映画並みの体験を創り出すためには多くの分野の才能を結集する必要があります。ThroughLine Games が最初のアイデアから最後の仕上げに至るゲーム制作のプロセスを教えてくれました。

Unity によるシーンの設定
ThroughLine のクリエイターは異なるレイヤーで異なる領域を設定しました。

Unity のカスタムツール
スタジオは大きなアニメーションスプライトを持つアニメーションの変化をスムーズにするために Movement Transition システムを開発しました。

アートブック
ゲームの美しいアートとスプライトのシートは多くのプリプロダクションアセットの 1 つであるアートブックに収められています。

手描きのアニメーション
理想の形と雰囲気を実現するために ThroughLine のアーティストは主要キャラクターの詳細なアニメーションを何百と描きました。

同時進行の絵コンテ
シーンで正確なカメラの移動と新しいアニメーションが必要になると、アーティストは制作に入る前に実現したい結果をスケッチにしました。